ライスバレーとは、コンテンポラリーアーティスト(現代美術家)である米谷健+ジュリア2人が手掛ける農Xアートプロジェクト。米谷(ヨネタニ)の米(ライス)谷(バレー)から命名(ブリヂストン=石橋みたいな)。数々の展示会で世界を駆け巡っていた最中の2015年、ほぼ衝動的に過疎化進む日本の典型的な限界集落(農村)へ移住を決定、「百姓は芸術だ!」のコンセプトを掲げ、昔ながらの無農薬&無化学肥料栽培に挑んだのが事の発端。地元農業委員会の面接をきわどくパスし、2016年2月、新規就農者として認定。草ぼうぼうの長期休耕田の耕作開始(ほぼ開墾と言える過酷な作業)。年々規模を拡大し、2021年現在は、約2町歩(20000平米)の圃場で本格的に営農(認定農業有資格者)。米、麦、豆、野菜、果物など栽培種類は多岐に渡る。
環境保全と食の安全をコンセプトに持続可能な農業を目指す。完全無農薬、無化学肥料、無除草剤で土の活力(土中に無数に存在する善玉、悪玉菌のバランスがポイント)を蘇らせ、圃場が生態系を復活させることで農作物の成長を促す。よって主役は、野菜や生き物(土に潜む微生物含む)。百姓である我々は、その環境を整える世話役(とはいえ、肉体的に非常に過酷。楽しいけど)。アート作品でも度々環境問題をテーマに制作し、その都度、その道の研究者、科学者のお世話になったが、この経験は、まさに目から鱗。百聞は一見にしかず。皆さんにも是非お勧め。
追記)コロナ禍の今となっては、この人生の選択は間違ってなかったと確信。始めた当初は漠然とだが、破滅的な近未来の世界を予測。「サバイバル?」が頭をよぎり、本業のアートそっちのけで畑を耕し続けた。単に食べ物に囲まれる安堵に終わらず、百姓体験から学んだことは数知れない。
巨大なアグリビジネス(食農産業)の実態からクリアに見えた世界の構造もその一つだが、何より貴重だったことは、土(微生物)と自身の内臓(腸内細菌)の繋がりを通して、この世の全てのものが繋がっているという体感。それは、おそらく古えのヘルメス主義でいう小宇宙(人間)と大宇宙という世界観に近いかも。近代合理+経済至上主義で人類の叡智はきっと退化しているのだろうと思う今日この頃。
雑草を一掃すべく畑に除草剤を撒けば撒くほど土が弱り(土中の微生物群も破滅)、変異種の耐性雑草が大発生する負の連鎖にはまった慣行栽培の農場を見るにつき、コロナ禍で混乱する今の医療現場とダブって見えてしまう。大切なのは、万物のバランス。その絶妙な均衡における健全な自然環境=良質な食物=健康な身体。この時勢において、持続可能な未来を模索しながら、自分たちにできる限りのことはやろうと思う。
2021年8月26日